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≪CCKビジネス/ものづくりお役立ち市場メールマガジン≫
 

≪ビジネス/ものづくりお役立ち市場 マガジン  vol. 001 ≫


1.テクノアントレプレナーシップ

      1.1. 「技術屋企業家魂」 (1回)2014年7月号

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

 

西暦2000年の年に、21世紀への心構えを新たにしようとして、私は、テクノアントレプレナーシップ(TechnoEnrepreneurship)という合成語をつくり、使い始めた。いわば、技術屋企業家魂とでも訳したら良いような意味合いのことばである。techno-は合成接頭語としてのtechnologicalの短縮形であり、entrepreneurは企業家、shipは精神とか魂とかを表わす接尾語である。当時、仕事の上でも日英二ヶ国語の文書を書きまくっていた時期でもあり、この種のキイワードの必要にもせまられていた。   多くの内外のテクノロジスト、科学技術論の専門家、ジャーナリストなどとも議論をしながら決めたもので、「ユニークな考えだ」と認めていただいた。  テクノロジーを発展させてきたのは、テクノロジストであることを自覚した企業家もしくは企業家精神を持った人達であるということである。私は、永年、テクノロジー、工学、科学の発展とそれら三者の関係性に強い関心を持っていて、1988年にコンサルタントを開業する動機にもなった。若きテクノアントレプレナーシップに富む人達を勇気づける仕事をしたいという意欲を持っていた。そういう人達のために、テクノアントレプレナーシップについて、それが如何に役立つものかを記す必要があると考え、本稿をまとめたいと思う。 テクノロジー、工学、科学の進歩は道具や技法の発明に支えられて来た。テクノロジーの進化が知識の体系化である科学の進歩を可能にする。にもかかわらず、人々は、新しい知識に基づいて新たなものが生み出されると単純に信じている。科学の進歩、新しい発見によってテクノロジーが進化し、技術革新が行われ、時代を画するような新商品が産まれると信じている人が多い。しかし、現実はそうではない。現代の経営学やマーケティングが、市場ニーズの概念をつくりだすはるか以前より、テクノロジストたちはニーズを知覚して、人間生活の役に立つようなテクノロジーを駆使した人工物を創り出していた。 今日の人間生活の役に立つようなテクノロジーを駆使した人工物は、経済活動、企業行動の産物であり、経済成長の力の源である。有史以来、農水産物を含む全ての人工物の生産・流通によって、人類文明は進化し、発展してきた。では、人類文明を進化させるテクノロジーは、いつ、どのように始まったのだろうか。   テクノロジーと社会の文明的パラダイムや文化的伝統は相互に影響しあう。アルビン・トフラーは、約15,000年ほど前に、人類が狩猟採集社会から農耕社会に切り替わって、農耕を開始したことをもって「農業革命」と呼んだが、これは農耕という新らしいテクノロジーが、古い狩猟採集社会の生活様式を脇へ押しやり、定住と家族形成の社会構造を置換させたことを示しているという。 また、ピーター・F・ドラッカーは、1965年に行ったアメリカ技術史学会の会長講演“古代技術革命に学ぶべき教訓“のなかで、「今日の技術の爆発には凄まじいものがある。しかし、7000年前に誕生した人類初の偉大な文明である灌漑文明において,技術が人間の生活にもたらした大革命に比べれば及ぶべくもない。新しい社会と新しい政治体制は、まずメソポタミアに出現し、続いてエジプトとインダス川流域、最後に中国に出現した。それが、やがて灌漑帝国へと急速に発展していった灌漑都市であった。」述べている。 さらに、それ以前の歴史家が、人類初期の思想の淵源を、古代ギリシャ、旧約聖書、古代中国王朝に求めていたことを質し、文明社会に欠かせない社会と政治の骨組が灌漑文明の夜明けとともに出現し、確立したことを指摘している。 すなわち、第一に灌漑都市は統治の機構として恒久的な機関、非属人的な政府を創設し、正真正銘の官僚を生み出した。飛躍的に高まった生産性のおかげで蓄積された余剰の富を護るために常備軍を持たざるをえなくなった。第二に、社会的な階層を生んだ。余剰を生んだがゆえに市場を生んだ。市は商人を生んだだけでなく、貨幣、信用、法律を生み出したことをも指摘する。とくにその法律は、19世紀の通商条約とさほどの開きのない、国際法上の正義と秩序を与えているという。第三に、灌漑都市は、はじめて知識なるものを生み、それを再利用する目的で体系化し、制度化した。水を得るための灌漑、治水の構築物を建設し、維持するための知識を必要としたがために、また複雑な商取引を管理するために必要があって文字が生み出され、知識の加工と教育が行われたという。これら活動を通じて、自然や社会を観察し、測定し、独自の合理的法則に支配されるものとして捉えた。第四に、個人なるものが生み出されたという。 これら四つの特質は狩猟採集社会から初期の農耕社会にはなかったものであり、ドラッカーは「灌漑文明は技術的政治体制と称することができる。」とむすんでいる。このドラッカーの論説は、私に、テクノロジーこそが文明を生み出し、進化させるエンジンであることを確信させ、のちにテクノアントレプレナーシップという造語を思いつかせることをインスパイアしてくれるものだった。


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      1.2. テクノアントレプレナーシップ(2回)

技術屋企業家魂「2」

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

プロトテクノロジーと呼ばれるべき、あるテクノロジーの原型が生まれる。その多くは、考古学的に先史時代、古代文明の遺跡の中から発見されたものである。驚くべきは、今日、技術競争市場向けに生産されている商品の殆どのプロトテクノロジーが現れるのは、古代文明のパラダイムの中においてである。その出現の有様を探ると、新しいテクノロジーを開発する局面で、参考になることが極めて多い。
  テクノロジー史において、車輪は最古の最重要な発明とされている。その起源は古代メソポタミアで、紀元前5千年紀にさかのぼる。当初は円形板によるものであったが、紀元前4千年紀にはヨーロッパや西南アジアに広まり、紀元前3千年紀にはインダス文明にまで到達した。中国文明では紀元前1200年ごろには車輪を使った戦車が存在していたことがわかっている。今日、車輪(Wheel, ホイール)といえば、リム、スポーク、ハブによって構成されたものを基本とし、目的・用途によって種々の材料が使われ、タイヤが装着される。このリム、スポーク、ハブによって構成された最古の出土品と考えられる見事な車輪が、イランのテヘランにある国立博物館に展示されているという。紀元前約1000年以上前のものとされているが、紀元前2500年ごろと目されるシュメール文明の絵画には、オナガーと呼ばれるイランの驢馬に引かれた2軸4輪の車輪のある乗り物がしっかりと描かれている。
  車輪を製造し、車軸や軸受けを装着し、リム、スポーク、ハブによって構成されたもののホイールバランスを釣り合わせることは絵で見るほど単純な仕事ではなく、車大工の専門的技量を必要とするものである。車大工が職業として成立するには社会の成熟が必要だったし、車輪が広く使われるようになるには、平坦な道路が必要だった。たとえそれが伝承された秘伝の技量であったとしても、多くの要素技術知識のマトリクスとしてのテクノロジーがなければできないことである。
  車輪の発明は新石器時代末のことであり、青銅器時代初期の他の技術の進歩と連携して語られることもある。これは、農耕の発明後も車輪のない時代がしばらく続いたことを意味している。さらに言えば、解剖学的に現代人と変わらない直立二足歩行をする人類(ホモサピエンス)が生まれた時期を15万年前としており、車輪のない時代は14万年以上も続いたことになる。車輪を発明するずっと以前から、我々と能力に差がない人類が地球上を歩き回っていたが、その時代の人口は非常に少なく、車輪付きの乗り物は家畜に引かせて初めて威力を発揮する。牛が家畜化されたのは紀元前8000年ごろ、馬が家畜化されたのは紀元前4000年ごろだったとされる。ユーラシア大陸では、馬が家畜化されて初めて車輪が真価を発揮するようになった。また車輪を製造し釣り合わせるには車大工の技量を必要とし、車大工が職業として成立するには社会の成熟が必要だった。
  テクノロジーの出現、進化、発展を考え、とくに新しいテクノロジーの開発を考えるとき、文明をパラダイムとしてとらえることが必要だと思う。
  ここでいうパラダイムとは、支配的な規範となる一般理論ともいうべきもので、かなり歴史的にも、分野や領域的にも、在来の学問の枠を超えた巾広い時間・空間のうえに成り立つものとして考える必要がある。地政学的な枠組や、歴史的な時代区分にとらわれない考え方をしたいからである。テクノロジーとマネジメントとの関係性のパラダイムとか、時代をリードするマネジメントツールとしてのテクノロジーのパラダイムといったものがあるとすれば、それは何なのだろうか。詳細については回を改めて論じるものとして、ここではおおまかな枠組についてのみ、予め設定しておきたい。新石器時代とか、青銅器時代とか、古代文明とかの歴史学的分類も、ハンチントンのような地政学的な分類も否定するものではない。
  肝心なことは、文明の出現、進化、発展を特長づけるのは、歴史的区分や地政学的区分によらないアプローチが必要だと思えるので、パラダイムとして見て行こうということである。
●第1文明のパラダイム;プロトテクノロジーが輩出するパラダイム。強力な  政治体制や 世界観、宗教観が未成立。
●第2文明のパラダイム;量産テクノロジーの農業分野における生成。テク  ノロジーとしての灌漑農業。富の集中と武力支配の始まり。武力支配を  前提とした強力な政治体制や宗教観の乱立。自然エネルギー利用。
●第3文明のパラダイム;工場生産、産業における量産テクノロジーの革命。エネルギー改革(商品化された機械エネルギーと電気エネルギーによる支配)。金融商品の乱立、金融市場の肥大化。
●第4文明のパラダイム;人類はいまやこの入口にある。知識産業の生成。
   経済発展が文明の進化・発展の原動力にならなくなった。第2文明の負の遺産(武力支配、民族問題、宗教観などの先鋭化)の克服。第3文明の負の遺産(環境問題、エネルギー改革、宇宙利用などの先鋭化)の克服。


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1.3.プロトテクノロジー3回

      技術屋企業家魂「3」

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

 テクノロジーの全ては人類の生存の目的を達成するために産み出された。火をつけ操作する技術は、人類が獲得した最も古いテクノロジーと考えられている。約150万年前の文化層から発見されている。火は、その後、人々の光・照明へのニーズと、熱・エネルギーへのニーズに応えるテクノロジーに大きく分化しつつ、更なる多岐にわたるテクノロジーとして進化してきた。
  ヒトは火をサバイバルニーズの核心である食物の調理に使い、暖を取り、獣から身を守るのに使い、生命の安全を獲得することにより個体数を増やしていった。火を使った調理は、ヒトがタンパク質や炭水化物を摂取するのを容易にした。火により寒い夜間も過ごせるようになり、あるいは寒冷地にも住めるようになり、ヒトを襲う獣から身を守れるようになった。ヒト属による単発的な火の使用の開始は、170万年から20万年前までの広い範囲で説が唱えられている。最初期は、火を起こすことができず、野火などを利用していたものと見られているが、日常的に広範囲にわたって使われるようになったことを示す、約12万5千年前の住居址遺跡から証拠が見つかっている。
  また、当初は火を起こすのが難しかったため、火は集団生活で共用されるべきものとなり、それにより集団生活の必要性が増大したとされている。
  火とともに起源の古いテクノロジーに道具の使用がある。約180万年とも150万年前ともいわれる地層から、大量の、最古といわれる石器・礫石器とほぼ完全な頭蓋骨とが同一文化層の出土品として現れている(オルドヴァイ石器)。形状から獲物の動物の皮を剥ぎ、肉を切断するものや、石斧として用いられたものとされている。興味深いことは、これらの石器を製造していたらしい痕跡がどこにもなく、礫石器を堅いハンマーやチョッピング・ツールで打撃を加えて剥片を得るやりかたで製作した証拠が現れるのはかなり時代が新しくなってからであるらしい。火に関しても同様で、火をつけたり、保存したり、利用するための道具の発明は、火の利用そのものより新しい。肝腎なことは、火の利用にせよ、肉剥ぎナイフの利用にせよ、それ等の操作方法・利用方法を実現する道具の、偶然の発見とともに始まったと見るべきことである。
  テクノロジーの出現、形成を考えようとすると、どうしてもその発生のいきさつに興味が赴き、考古学、歴史学、人類学などのたすけが必要である。そこで発見したことは、現代においても頻繁に用いられているテクノロジーの大部分が、古代(文字以前)にプロトテクノロジーを産み出していることで、文明のパラダイムはその後から形成されてきたといえることである。考古学や古人類学が当然として扱っている時代区分と、これらの学問が取り上げるテクノロジーのレベルや進化過程がどうもしっくりと整合しないのである。私の勉強不足と考えが的外れということもあろうかとも思うが、これらのプロトテクノロジーが想像より遥かに高レベルの知識によって構成されていることに気づかされる。
現代の人間行動は次の4つの能力を含むとされる:
① 抽象思考・法則の理解と応用(具体的な例に依存しない概念)
② 計画(目標を達成するためのステップを考える)
③ 発想力(新たなアイデア、解決法を見つける)
④ 記号的な行動(儀式、祭礼、埋葬やシンボル・偶像を大切にする)
  これらの能力は学習によって進化するとも考えられている。その場合、熟練や技能や方法の発明や直感などはどこへカテゴライズしたら良いのだろう。強いてあげれば、「法則の理解と応用」といえなくもないが、法則はつねに不動の抽象である。むしろ、新しい突破口的テクノロジーは、新しい法則の発見をうながすものだ。
  いささか唐突に見えるが、「アートという語をアーティストの意図を実現するのに必要な、熟練、あるいは能力という意味につかうなら、洞窟壁画と、ラファエル、あるいはピカソの線描とのあいだには、なんのたいした差異もない。」(H.リード、《イコンとイデア》)と言って世界を驚かせた美術史研究家がいる。これはアートの技法は、原始の旧人(ホモサピエンス以前の人類)と現代の巨匠ピカソとのあいだに、進化を示す何の証拠もないといっているのである。この後、進化するのは美的意識、アートのコンテンツであるとして、その進化過程を詳しく論じたものであった。
  しかし、ここでアート、アーティストを、テクノロジーとテクノロジストと置き換えたらどうなるだろう。テクノロジストの意図を実現するのに必要な設計能力、製造技術は格段の進化を果たしている。もちろん、そのテクノロジーのコンテンツも進化しているのである。にもかかわらず、アートとテクノロジーの比較は、テクノロジー開発、商品開発をインスパイアするマネージメントにとって、重要な視点を提供してくれるものと信じている。次号以降そのことに立ち入って行きたい。

 

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2.「ビジネス/ものづくりお役立ちマガジン」

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