TOP>メールマガジン  2018年<前に戻る

≪CCKビジネス/ものづくりお役立ち市場メールマガジン≫
 

≪ビジネス/ものづくりお役立ち市場 マガジン  vol. 005 ≫


4.第3文明の出現とそのパラダイム

      4.3.マーケティングリスクとテクノロジーリスク(第22回)

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

 製造業の社長[1]は最先端テクノロジーを良く知る人物であることが必要である。できることなら、MSかPhDの学位とMBAの学位を併せ持つべきである。社長は、つねに、自社事業のマーケティングリスクとテクノロジーリスクを冷静に把握し、展望できるポジションにたたねばならない。その最もよい成功例として、HP社の創立者であるウイリアム・ヒューレットとデイビッド・パッカード[2]、インテル社の創立者であるロバート・ノイス、ゴードン・ムーア、アンドルー・グローブの三人、アップル社のスティーブ・ジョブス、マイクロソフト社のビル・ゲイツなど、いまやテクノアントレプレナーのレジェンドとしてあげて良いであろう。  彼等は、テクノロジー史において、時代を画する突破口的な商品を開発して、事業を起した人々であり、それよりも、テクノアントレプレナーシップのシリコンバーレイモデル[3]としても名高い。いずれもMBA学位は持っていなかったが、新商品のマーケティ ングリスクとテクノロジーリスクを的確に投資家(ベンチャーキャピタリスト)に説明し、納得させる力量を発揮した。

  

[1]

本稿では、社長とはアメリカ流のCEO(最高経営執行役員)としての責任を担う経営者という意味合いで用いる。日本の会社法(349条など)にはCEOの法的規定は無い。最近、日本でよく見られるのは、代表取締役CEO、代表取締役COO社長執行役員などの例で、349条に基いて会社の代表権を与える一方、CEO、COO、CTO、CFOなどの職務規程(Job Description)を社内規定として設けるやりかたである。

[2]

ここでは、1999年に分割される以前の”Hewlett Packard Company,”(1939設立) を指す。

[3]

シリコンバーレイには、4回もしくは5回のバブルと崩壊があった。それぞれ異 った新市場が爆発的に形成され、突破口的な新商品とテクノロジーが生成され、 それぞれのフェーズにおいて、ベンチャキャピタリストの支援を得て中小企業か ら出発した世界企業が産み出された。その総称をシリコンバーレイモデルと呼ぶ。

相手はベンチャキャピタリストだけではない。社内のCFO(財務執行役員)に好意を もって受入れられる必要がある。技術のイノベーション、新商品開発にはテクノロジーリスク(テクノロジーが成功するかどうか)がつねにある。場合によっては、途中でサスペンドしなければならなくなったり、延期せざるを得なくなったり、予算の増額をしなければならなくなることは覚悟しなければならない。その都度、財務キャッシュフローの変更が必要になる。


  

そのための変更ルールをPDCAサイクルに、CFOの信用を損なわないように組み込んでおく必要がある。イノベーションとか、開発の評価の物差しは、通常の業務プロセスの評価基準では検証できない。新しいことをやるわけだから、それに相応しい 評価基準をつくりながら、段階毎に前へ進めなければならない。この点が、開発マネージメントのもっとも難しい点である。

 CEOとCFOの認識にギャップが生じ、その開きが大きくなり過ぎると危険である。一般に、イノベーションとか、テクノロジー開発などは「よく解らない」と口にするCFOは少なくない。イノベーションとか、開発に要する費用は投資キャッシュフローとして運用・管理・評価されるものであるが、その責任者が持つべき市場とテクノロジーのダイナミズムに対する理解が、ビジネス雑誌レベルでは経営の将来は危うい。上図は、CEO、COO、CTO、CFOが、つねに共通認識に立つための、基本構想である。この種のプランの表し方や、要求精度については、各企業の事業特性によって、それぞれ工夫がある筈で、これが唯一のものではないが、イノベーションと開発に要する費用を投資キャッシュフローとして捉え、開発のPDCAを展開するルールの基準は必要不可欠である。

 CFOやベンチャキャピタリストが熱心に評価しようとするのは、ROE(Return On Equi- Ty)(株主資本収益)がいつプラスに転じるか、そしてその信頼性はどうかという点である。

イノベーションとか商品/テクノロジー開発は、もともとマーケティングリスクとテクノロジーリスクが一体となったものへの挑戦である。マーケティングリスクとは、市場投入された商品が、機会損失なく、市場ニーズを具体的な需要としてキャッチアップできるかどうかの事前予知の問題である。いいかえれば、「わが社のテクノロジーは、ニーズにあった商品を創り出せるか」というリスクである。これこそマーケティングリスクとテクノロジーリスクに挑戦する時の根本課題を浮上させてくれる。  マーケティングの立場からすれば、ニーズの捉え方は正しいか、核心となる主要なニーズはなにか、ニーズと考えられるものを十分に把握し、アイテマイズし、重要度を共有しているかなどの疑問を、PDCAサイクルのなかに組み込んで、的確に検証することの難しさにあるからだ。

  

 テクノロジー開発の立場からすれば、開発の目標はニーズに適合するか、テクノロジーの壁を破って目標に到達できるか、実現手段に用いる関連/周辺テクノロジーは十分に利用可能か、その中に開発リスクがある場合にどう対処するか、核心となる主要な開発課題はなにか、課題と考えられるものを十分に把握し、アイテマイズし、重要度を共有しているかなどの課題設定を、PDCAサイクルのなかに組み込んで、的確に検証することの難しさがあるからだ。

ニーズは必ずマスク(覆いに被さる)されており、全貌はなかなか見えないものである。これが主要なニーズだと思っていたら違っていることもしばしばである。顧客ユーザー自身が、自分のニーズを間違っていることすらある。とくに、先端技術に関わっていて、厳重な箝口令がかかっているような場合、こちらのストレートな質問には殆ど満足な答えは得られない。お互いに「葦の随から天井覗く」状態が続くことがある。

 しかしエマージングニーズは、世界が活動している限りかならずある。マスクされたエマージングニーズは、その情報を求め、高いモティベーションをもって知識として集積しようと努力する者にしか見えて来ない。全社をあげて、これができるかどうかは組織論より企業文化論、企業形態論より情報システム構造論的な掘り下げが必要である。

私見であるが、戦略マーケティング執行役員(SMO : Strategic Marketing Officer)とでもいうべき担当者を置き、CEOに「マーケティングは全社でやるものだ」とでもいう理念を吹き込んで貰うのが、大きな戦力アップになる。執行役員クラスの適材がいれば、それが望ましいが、いなければ、10年がかりで育てるつもりで、MSで5年以上のキャリアの人間を抜擢し、課長もしくは部長の職位を付与すればよい。あとは、彼のモティベーションと技術的博識さと、有用で新しい物事に対する知覚力を高めるために、CEOが上手に育てることが必要である。

 SMO役はCEO直属とするが、ライン上の統治権限はいっさい持たせず、ひたすらCEOの「ブレーントラスト」の事務局長と戦略マーケティングの調査に専念させる。そのための費用を、CEO室等に、SMOの旅費交通費、会議費、交際費、資料購入費の予算を組み、彼の裁量で使えるようにする。

 CEO・社長のブレーントラストをつくる必要がある。SMO役のミッッションは、会社内に蓄積された、もしくが蓄積すべき、知識経営資源を社内外から発掘し、CEOの知識として利用可能なかたちに集積することである。CEOの心得としては、助さん/格さんや代弁者としてはならないことである。

 次回以降で、成功するブレーントラストのモデルを構想してみたい。 つづく

■□■□ _______________________■□■□  
      4.4CEO、社長のプレーントラスト>(第23回)

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

経営の最高の責任者は、自分自身の情報収集ネットワークとして、従業員に周知されたブレーントラストをつくるべきである。社長のマネジメントトラスト、ブレーントラスト、シンクタンクなどの名称は、それが実体をともなう目的であっても、注意して使う必要がある。ラインオブマネージメントに属さない(権限を持たない)、一種のインフォーマル組織にして置くことである。メンバーは、主題ごとにプロジェクトベースで招待するものとし、固定されたスタッフは、前回にふれた事務局長役としての SMO 役と秘書程度に留める。しかし、ミッションは明らかでなければならない。すなわち、CEOが行う戦略マーケティングのセンターとして、社業の核心となるであろうエマージングニーズを、社内外の知的資源として発掘することである。私はこれを戦略マーケティングと呼ぶ。

中小企業や中堅企業として、ある程度の成長軌跡を残して今日ある企業なら、現在の主力商品と同額の年間売上をもたらすような、もう一つの別系列の主力となる新商品を、一〇年を目途に創り出すことができなければ、確実にジリ貧状態になって行くであろう。大企業においても同様であろう。文系脳の経営者は、「経営企画室」とか「企画部」のような組織をつくりたがる。経営企画室が必要だとする発想や、そのような組織はないよりましだという考えに、私は反対である。これらの組織は、所詮、絵に描いた餅の将来図しか描けない。

  

CEO のブレーントラストには、つねに「一〇年後の主力商品を産み出す新市場はなに か」について考えさせなければならない。つねに「新しい市場ニーズはなにか」という 観点を見失ってはならない。主力商品を産み出すテクノロジーに関心は行き易い。新し いテクノロジーは、市場ニーズに較べると、一見して見え易く思えるし、明るい未来が 垣間見えるので、誰もが自分の関わりたいテクノロジーの将来図を描きたがる。新しい テクノロジーの提案者は、勇気づけてやる必要である。CEO のブレーントラストは、新 しいテクノロジーのアイデアを評価できる能力を持たなければならない。そうでないと モティベーションが上がらないからである。評価の基準は、一貫して「新しい市場ニー ズはなにか」である。CEO のブレーントラストの中にあって、CEO と SMO 役は片時も市 場ニーズは何かという質問を発することを忘れてはならない。これは、新しいテクノロ ジーアイデアのマーケティングリスクを見極める必要からである。

テクノロジーアイデア評価は、その新規性、卓越性の評価とともに、テクノロジーリ スクの冷静な把握が必要である。そのためには、新しいテクノロジーアイデアが利用し なければならない関連テクノロジー、隣接周辺テクノロジーが、いつになったら利用可 能なレベルまで十分に進化・熟成するかを、知識としてキャッチアップする能力が必要 になる。

新しいテクノロジーアイデアを実現するには、必ず、新しい関連テクノロジー、隣接 周辺テクノロジーの利用が必要になり、そのトラッキングを怠り無く、それぞれの分 野にある壁をどう乗り越えつつあるかを把握し、新しいテクノロジーアイデアの日々の 修正能力が、開発における PDCA として必要になる。先行リサーチフェーズの新しいテ クノロジーアイデアの評価には、十分な配慮が必要だ。

  

  

先行リサーチは、アイデアが生まれたときに始まると考えるべきである。砂場遊びの ようなものから、実現性の高いものまで多彩であるほど良い。SMO 役の役割は、斬新な アイデアが産まれてくるような、社内のモティベーションを高めることにあるのだから、アイデアが収集できる仕組みをつくることにある。先行リサーチ課題の候補は、常時、 10 位はあってよい。先行リサーチ課題の候補を、先行リサーチ課題として選定するべ きかどうかを、ブレーンメンバーに纏めさせ、CEO にレポートさせる。期間は当初 3 ヶ 月程度、メンバー数も 3 人程度で始めるのがよい。正式にプロジェクト辞令を出して、 彼等のライン業務と重複して行わせる。プロジェクト業務とライン業務がバッティング するような場合は、プロジェクト業務優先が原則である。当然ラインのメンバーの負荷 が大きくなることがありうるので、ラインの長と SMO 役とで調整をつける必要があるだ ろう。人件費、交通費などはプロジェクトの負担として、プロジェクト日報などの社内 手続きで振替られるべきである。

  

CEO のブレーントラストメンバーの最初の仕事は、上にのべたように、先行リサーチ 課題の候補を、先行リサーチ課題として選定するべきかどうかを判定し、CEO にレポー トすることであった。レポートは、@できるだけ速やかに先行リサーチ課題としてとり あげるべきである、A先行リサーチ課題としてとりあげるべきでない、B○○ヶ月保留 して再検討するべきである、のいずれかを明示する。

  

  

CEO は、先行リサーチを担当するプロジェクトブレーン(SMO 役を含む)を選定し、 先行リサーチを開始する。先行リサーチの内容は、レポート完成までは、プロジェクト メンバーのコンフィデンシャルとする。

先行リサーチは、科学的な方法をふまえ、レポートにはテクノロジーのアイデアを実 現する手順、手段、それらのロードマップ、商品化に必要な投資キャッシュフロー、期 待売上利益、期待 ROE などの情報が纏められるべきである。この投資キャッシュフロー /期待売上利益/期待 ROE の関係図の例を前回示した。先行リサーチのレポートにおい て、この関係図まで描きあげることは、以外に重要である。そのため、先行リサーチの ある時期に、財務部門の若手にメンバーに加わってもらい、CFO の好意をはやめに獲得 する努力を怠らないことである。開発投資や新商品のための設備投資の資金を用意して くれるのは CFO である。いくら CFO でも、ある日巨額の投資をしたいと CEO からいわれたのでは、困惑する。たださえ財務関係の人たちの新市場ニーズや新しいテクノロジーに関連する最新情報や知識は、間違いだらけのビジネス誌の域をでない。CEO はリスク を無視した無謀な開発投資に走っていると、CFO に誤解されることもしばしばである。 CEO のブレーントラストは、CFO に信頼される存在であり続けなければならない。さき の関係図は、業務キャッシュフローと投資キャッシュフローと資本キャッシュフローを、テクノロジー開発・市場開発のロードマップと同じ時間軸で表わす良い方法である。

  

  

CEO のブレーントラストが、科学的な方法で実行する上では、冷静なマーケティ ングリスクとテクノロジーリスクの把握、プロジェクトのトラッキングと修正能力、演 繹論理と帰納論理の整合、定量化しにくいことを定量化する手法などの素養を身につけ、調べるべき対象への知識、それ以前の基礎的な知識などが要求される。このよ うな知識面以外に、「対象に影響を与えるドミナントな支配法則をまず考慮して 概略の傾向を数値的に掴むこと」、「調査、実験・観察ノートをきちんとつけら れること」、「支配法則の影響を論理的に表現できる思考力と、数学的に厳密・ 正確に思考し表記できる一定の計算力、」などの知識面とは異なる素養、具体的 にはスキルや評価項目が存在すると考えられている。これ等の素養が身に付く 環境を整えてやることが必要だ。

先行リサーチとはいえ、シミュレーションモデルの構築、実施、小規模の実 験は認められるべきである。そのための予算を確保する仕組み作りは、SMO 役の 手腕である。先行リサーチの費用は、先行リサーチプロジェクト予算として、 SMO 役の決済で使えるようにするのがのぞましい。

  

  

先進的な市場ニーズや先進テクノロジーの情報・知識は、それをやっている 人に近付かなければ得られない。先行リサーチは、それらの人に接し、どれだ け親しく意見交換ができるかで決まるといってよい。どれだけ巾広く、先進テ クノロジーに関連する学会やテクノロジーソサイエティが出している論文やニ ューズレターに眼をとおし、その執筆者と面接するのがよい。先行リサーチの プロジェクトメンバーには、そういう機会を、積極的に与えてやらねばならな い。実際には、経験と素養を必要とする、そのメンバーの能力でもある。国内 外の学会などに、課題を持って参加させ、会社の知的資産を拡張できる能力を 磨かせることである。

  

  

先行リサーチは、あまり時間をかけずに結論を出し、CEO にレポートする。レ ポートは、 ”what would happen” の 未 来 シ ナ リ オ で は な く 、 ”what couldhappen”の将来シナリオとして書かれなければならない。

つづく

■□■□ _______________________■□■□

 

■□■□__________________________■□■□
2.「ビジネス/ものづくりお役立ちマガジン」

  ●CCK「新技術・新商品お役立ち市場

◆◇◆------------------------------------------------------◆◇◆
    ■発行  キャリア・コンサルタント協同組合
    ■住所  〒101-0052 
      東京都千代田区神田小川町1-8-3 小川町北ビル8階
    【編集】大野長壽 【事務局】平松靖弘
  ◆◇◆------------------------------------------------------◆◇◆
 

キャリア・コンサルタント協同組合

ビジネス/ものづくり お役立ち市場事業部
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町1-8-3
TEL:03-3256-4167 FAX:03-3256-4167

Copyright (C) 2007 CCK. All Rights Reserved.