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≪CCKビジネス/ものづくりお役立ち市場メールマガジン≫
 

≪ビジネス/ものづくりお役立ち市場 マガジン  vol. 006 ≫


5. テクノロジーの先行リサーチから

      5.1.商品開発の実施計画へ(1)(第24回)

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

 リスクとは、本来、疫学の用語で、基本的には確率とほとんど同じ意味である。通常、不成功確率の意味合いが強い感覚で使われる。「一〇年後の主力商品を産み出す新市場はなにか」と問われても、未だマスクされ、存在しないように見える市場ニーズを見極める不成功確率、すなわち、マーケティングリスクを示せといわれても、そう簡単に示しようもない筈である。答えのない問いにこたえろというのと同じである。

 このような場合、先行リサーチにおける可能なスタンスは、マーケティングリスクを、”what could happen” というシナリオの成功確率を求める視点に立ち、なおかつ、テクノロジーリスクとのセットで、テクノロジーの ”what could happen scenario” を同時に追求するのが、唯一のアプローチである。これは、一つの哲学的アプローチでもあるが、テクノロジー開発にあたっては「はじめにニーズありき」とする信念を片時も忘れないスタンスで、「犬も歩けば棒に当たる」式の先行テクノロジーリサーチを行う覚悟が必要である。

 

この「はじめにニーズありき」と「犬・棒マーケティング」の念仏を、口を酸っぱくして唱えていたのは、私が勤務していたアドバンテスト社の創業者(創業当時タケダ理研工業)であった武田郁夫である。武田が口を酸っぱくしていっても、「あれは社長の念仏だ」と社員や銀行にいわれ、「誰もおれのいうことを解ってくれない」と社長は嘆いていた。

  

「はじめにニーズありき」は、武田が自らの経験に加えて、ドラッカーの《現代の経営》を読んで啓発されたものであった。そのことに気がついた私の提案で、主任以上の全員(当時約100人)に《現代の経営》を読ませた。果たして何人だ読み切ったかは不詳であるが、平行して行った勉強会の常連の顔を思い出してみると、20人は読み切ったと思われる。あわせて、「マーケティング委員会」なる定例会議をつくり、情報交換とマーケティングとテクノロジーについての思想統一を目的にした運営をはかった。社長に叱られたときの反応が変わって行った。

 社長の商品開発への危機意識は強く、緊張感に溢れていた。社業は順調に伸びており、300人規模の会社は、すぐに1000人規模になりそうな勢いであった。武田の危機意識は、現在の商品構成では行き詰まるというものであった。折しも「支払遅延防止法」などという法律がつくられるほど、日本の資本主義は未熟な状態にあり、大手企業と言えども、いわば貧乏状態にあり、機械設備関係の支払には210日の手形が押付けられていた。

  

 そういう状況下においては、先行リサーチと呼ぶにふさわしい主題(subject idea)を提案する者はなかなか出て来ない。しかし一方で技術革新の大きな流れは誰の眼にも明らかであった。電子産業は、電子管(真空管)の時代からトランジスタへ、そしてIC化、LSI化、VLSI化へと移行することは間違いのないwhat could happen の世界が広がっていた。この流れを機会として捉え、自社のコアになる技術を革新していかなければ、会社の将来はないという危機意識は高まっていた。電子デバイスの技術革新と平行して進んだのはデジタル化の技術革新であった。欧米では、第2次大戦期より、通信のデジタル化、デジタル電子計算機の研究・開発は組織的に行われたが、日本は大きく遅れていた。アドバンテスト社は、日本の電子産業の中では、ほんの小さな一角を占めるに過ぎないベンチャ中小企業であったが、これらの what could happen の先進情報と重要性は、社長をはじめ複数の幹部の耳には達していた。私は武田のいう「犬・棒マーケティング」の意味を最初に体感した一人となった。

 「犬・棒マーケティング」とは、いろは歌留多の「犬も歩けば棒に当たる」をもじったもので、犬でも歩き回れば、偶然、棒に当たることがあるのだから、狙いを定めて、課題意識をもって歩き回れば、必ず金の棒ともいうべき価値ある情報に出会えるという哲学である。先行リサーチにとっての最重要のスタンスはこの「犬・棒マーケティング」のアプローチである。狙いを定めたり、課題設定をしたりするには、その方面の先進的な研究報告が良く掲載される学会報告の類いに広く眼を通し、より高みを目指して、自らの知覚力を高めなければならない。巾広い関心、自分の専門領域だけでなく、隣接領域、関連領域への目配りは非常に重要である。

  

 アドバンテスト社は、電子計測器メーカーであった。1968年、コンピュータ、通信機、家電、自動車生産市場などのデジタル化の波に、挑戦的に取組むための、四つの開発プロジェクトをスタートさせた。のちに五つ目を追加した。
    1, ICテスタ(ダイナミック・ファンクショナル試験による超LSIテスタを目指す)
    2, ミニコンピュータ制御のデジタルデータ収録装置
    3, デジタル周波数シンセサイザ
    4, 半導体化周波数スペクトラムアナライザ
    5, デジタルFFTアナライザ
の5プロジェクトであった。どういう市場に向けた、どういう商品かの説明は省略する。いずれも、ここでいう先行リサーチを十分に行った訳ではなかった。1964年頃から高まったデジタル化とコンピュータ化への対応という危機意識に追われて、組織的ではなかったが、単発的に先行リサーチはやっていた。そんな中で、1965年にDEC社のPDP-8(12bitミニコンピュータ)が、1967年にはHP社を始めアメリカの数社が16bit ミニコンピュータを市場投入して来た。もうぐずぐずしては居られないという想いで、社長に具申し、ミニコンピュータ応用の戦略を考えることになった。当時、電気試験所(現独立法人電子総合研究所)の電子計算機研究室長の相磯貞夫の知己を得て、いろいろ話 をうかがった。「風巻さん、コンピュータをコンピュータらしく使うにはどうしても32bitのアドレス空間が必要で、それを活かしたOSが不可欠です。自動車より安くなるといいんですがね。」という話であった。金の棒にぶちあたった感じがした。事実、後に32bitパソコンが出現してから本格的に使われ出した。このときは、今からでも間に合うという確信であった。

 1969年にDEC社からPDP-11が発表されると早速2台を購入し、同社のHardware Familiarizatiomというトレーニングを何人かで受講した。OEMユーザーとして使いこなし、故障診断ができる程度の懇切な解説で、すぐにでも作ることができるほどのものであった。

1978年まで10年かかったが、32bit×16 general registerをもち、VLSIの試験に必要なtest vectorを生成でき、それを効率的に試験機本体に転送できる広帯域のバンド巾のI/Oを持った、高性能メガミニコンピュータをつくった。最後まで、試験実行制御部ということにした。当時の風潮として、技術屋もビジネスマンも、コンピュータを中小企業が作るなどという危険は冒してはならないという考えが支配的であったからである。

  

 テクノロジーというものは、作って、動かしてみるまでは、それが作ることができて、役に立つかどうかの検証はできない。新しいということは、未だ誰も作った前例がないということで、どんなハードルや壁があるかが解っていない状態である。先行リサーチの段階では、概念だけのシステム設計、サブシステム設計、テクノロジー要素の設計、重要のセルレベルの設計を行い、テクノロジーの何を開発しなければならないか、想定されるハードル、壁がありそうなテクノロジー要素をできる限り詳細に書き出し、突破口的テクノロジーを担当させるチーム編成を想定する。チームメンバーの固有名詞は、プロジェクトの認可までは伏せ、必要能力の記載に留める。

  

 これらの作業を、ブレーントラストメンバーにやらせる。メンバー数は、目標とする商品によって必要人数を決めればよいが、商品に使われる総部品点数や新テクノロジー要素数から割り出す等のやりかたがありうる。ある段階から財務関係のメンバーを加えることを忘れてはならない。

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      5.2.商品開発の実施計画へ(2)(第25回)

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

テクノロジーというものは、作って、動かしてみるまでは、それが作ることができて、役に立つかどうかの検証はできない。これは前回にも述べた。しかも、将来の市場ニーズの先行リサーチと、それに合致した商品テクノロジーの先行開発は、今、その目標と主題を定めてスタートさせねばならない。そのマネジメント責任は、一義的にCEOにある。このマネジメント責任は、CEOの任期が10年であるとして、自分の任期が終わるまでに、10年以降の「メシの種」となる商品を開発部隊に産み出させることを、中核的ミッションとすることにある。

現在の「メシの種」「金のなる木」となっている主力商品は、市場ニーズの変化で、いつその地位を明け渡すことになるかわからない。「マーケティングでもっとも大切なことは、自分の市場位置をしっかり把握することだ。」とフレデリック・コトラーはいう。自分の市場位置を、私流に解せば、定量的には当然のことながら、定性的にもしっかりと見極める必要があるということだろう。市場がエマージング(成長過程にある)かどうか、自分がその市場でNo. 1であるか、No. 1になりつつあるかどうかである。No. 1の地位を勝ち取っていなければ、その商品は「金のなる木」にはならない。もし競争的ニーズのほうがエマージングならば、ただちに戦略転換が必要である。

  

 自分の市場位置をしっかり把握するには、相当量の頭の体操が必要である。その頭の体操のパートナーが、私のいうCEOのブレーントラストのメンバー達である。商品開発・テクノロジー開発の主題と目標ごとに小グループを構成し、自分たちの将来の方向性と実現手段について考えさせる。

最初のミッションは、先行リサーチを、どういう主題と目標で、いつ、どういうように発足させるべきかの、アイデアを纏めることである。先行リサーチに限らず、市場ニーズやテクノロジー開発に関するイノベーションの主題アイデアが、常時、全社から集まるような仕組みと窓口を作っておくのはSMO(Strategic Marketing Officer)の仕事である。SMOはできるだけ生の形で、SMOの勝手なフィルターを透したりせず、粉飾なしに、迅速にCEOにとどくことが肝要である。アイデアと情報のソースとCEOとの間に、中間的な加工が行われない保証がSMOの信頼度である。この信頼感がないと、高いモティベーションが失われる。なぜかというと、全てのイノベーティブな主題は、現行の諸課題を担っている組織にとっては、新たな荷重となる課題にほかならない。改善提案制度のようなシステムをうまく運用している組織であっても、商品機能の拡張、革新や精度の大幅な向上などの市場戦略の転換を主題とするイノベーティブなものは、中間管理職にとって、たとえその新規性、有用性、付加価値増大の見込みが理解できたとしても、現行課題を達成するまでは、障害物に等しい。開発部門内部でも事情は同様であるか、別の意味でもっと悲観的になる。マーケティングとテクノロジー開発のマネジメントが、トップダウン的に行われているか、ボトムアップ的に行われているか、リサーチ、開発、設計がウォーターフォールモデルに沿っているか、コンカレントエンジニアリングモデルをベースにしているかによって、開発シナリオの描かれ方が大きく異なってくる。

  

 トップでなければできないことは、社内にある事業発展の障害物や壁を取除くことである。マーケティングとテクノロジー開発の主題(subject)[1]は、既存市場のニーズの変化に対して追加的(additive)に対応すべきもの、補完的(complementally)に開発すべきもの、突破口的(break through)なテクノロジー開発が必要なもの、という三種類の対応[2]によって、市場に興った変化への対応が必要になる。市場の変化は直線的でないことの方が多い。変形しながら、成長か縮小かの道を辿る。マーケティングとテクノロジー開発のオリジナル(元々の、発生源的)な主題アイデアは、なんらかの市場変化の刺激を受けてうまれる。その発生源的、原始的刺激情報は、今までマスクされて見えなかった市場ニーズが、マスクのほころびや、市場への先入観などから外れて、若いフレッシュな感性や知覚力によって、何びとにも先駆けて見出したものである。よくいうナマ情報、ナマ知識なのである。このナマ知識と思われるものが、鮮度の高い状態で、十分な件数をもってCEOとSMOに届いているかどうかは、その企業の将来に向う活性度を表わす指標である。

 私は、障害物や壁といった場合、それらが有形、無形に社内に蔓延こり易いものであることに、マネジメントは配慮すべきだと思う。社内の基準、規則、習慣は、イノベーティブなことをしようとするとき、しばしば障害/壁になる。これに対しては、何の目的のためかを把握したうえで。CEOは「ルールは破るためにある」(ただし、失敗したときの責めは負って貰うぞ)といって励ます立場にある。もう一つは、サラリーマンである社員たちの、個人の人間性である。開発主題のアイデアが誰の発案なのかは、特許の発明者が誰なのかと同様、事の大小に関わらず極めて重大なことである。開発の現場でよく興ることは、誰か(仮にAAとする)が暖めていたアイデアと同一か、同一に近い隣接領域にあるアイデアを提案しようとする別の誰か(BBとする)が、ほぼ同時期に現れて、BBが主題の提案をしようとするときに生ずる競争関係である。

  

 この二人を敵対的な競争関係にしてはならない。どんな争いも機会損失を産むだけである。どちらも、その企業の将来を左右するノーベル賞級の主題であるかもしれない。私は、企業内においては、先発明主義も先願主義も平等に尊重するフィロソフィーを、CEOは宣言・衆知させると同時に、判定が必要なときは、CEOのみが判定できるというガバナンスのマナーを定着させる必要があると思う。AAは、自分があるアイデアを着想したしたことを記録し、アイデアの重要性、新規性、独創性を理解できる同僚にそのアイデアを説明し、日次と内容を確認したという意味の署名を得て置くことによって、社内のピアレビューの証拠となる条件を保全して置く事が必要である。と同時に、自分が開発を担当するかしないかに関わらず、開発主題として取り上げて欲しい案件は、マーケティングの機会損失にならないように、迅速にSMOの提案窓口に提案書を提出させる。BBのアイデアも、AAのアイデアも、提案書がSMOのデスクに届いたとき、新しいマーケティングとテクノロジー開発の主題があることを、会社は組織として認知したことになる。  この提案書をどう捌くかが、その企業のマーケティングとテクノロジー開発の活性度が違ってくる。

  

[1]主題(subject):

日本では「開発テーマ」のようなことばが、習慣的によく使われるが、テーマ(theme)はアートの世界で「主旋律」とか「テーマカラー」として使われるもので、開発マネジメントには使われない。課題はsubjectであるが、subjectは主題の方が相応しい。

[2] 三種類の対応::

この三つに分けてマネージするべきだとする提案は、ドラッカーのものであるが、私自身の成功的なマネジメント体験でもあった。追加的なものにAT、補完的なものにCT、突破口的なものにはBTというプレフィックスをつけて、予算、期間、プロジェクトを立てるかどうかなどの、設定基準を予め提示した。                   

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      5.3.商品開発の実施計画へ(3)(第26回)   2017年号

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テクノロジーの先行リサーチは、どのように進めたら良いのだろう。ブレーントラストメンバー達に、どういう日常業務をやらせたら良いのだろう。はたまた、先行リサーチ主題のアイデアが、人材不足をきたすほど出てくるのだろうか。

 先に、自分が開発を担当するかしないかに関わらず、開発主題として取り上げて欲しい案件は、マーケティングの機会損失にならないように、迅速にSMOの提案窓口に提案書を提出させる制度をうまく運用して、企業内のモティベーションを高め、市場ニーズとテクノロジーとの変化・進化の必然性(what could happen)に敏感な、活性度の高い組織にすることこそCEO、SMO、CTOといわれる人達のミッションである。これらの人達は、毎日、「もっと市場ニーズにあったものを!」と何十回でも繰り返し言い続けなければならない。

  

 その上で、提案書として出された主題をどう捌くかの検討を、1週間以内に開始し、1ヶ月以内にCEO方針決定を行なえるようにしなければならない。方針決定とは、その提案をマーケティング・開発主題として、@採り上げるか否か、AATかBTかCTか、B先行リサーチは必要か、どのように行うか、Cセキュリティレベル設定の四点を明確にすることである。とくに重点となるのは、先行リサーチを行うかどうかにあり、先行リサーチが必要ないと判断されるものや、ATやCTで先行リサーチが必要であっても、予定されている開発予算の範囲内で行えるものは、CTOに一任される。先行リサーチに伴う新規費用を、CTO(開発部門の当年度予算)に負担させてはならない。

 方針決定の初回検討会は、提案者、CEO、SMO、CTOに、販売部門と開発部門の有志、CTOスタッフで現開発工程を把握しているテクノロジーマネジメント担当者等を加えて行い、有志メンバーの人選は挑戦的な目標設定ができるようSMOが配慮する。全ての必要な決定はCEOの決定として行う。

  

 多忙で、重責を負っているCEOの負担はできるだけ軽減しなければならないが、CEOの最大の楽しみは、将来の事業展開、十年後に現在の主力事業と同規模以上の次世代主力事業を、どう創り出して行こうかに深くコミットし、心ある社員と一緒に、テクノロジー開発や事業戦略について考え、実行計画に移す事である。先にも触れたように、CEOのブレーントラストは、そのための初期的なブレーンの集団である。  提案者には、初回検討会で、自らの提案アイデアについて想いの丈を十分にプレゼンテーションできるようにしてやることが重要である。市場ニーズについてのナマの情報が減衰したり、加工されないよう、アイデアの新規性が阻害されないように取計らってやるのがSMOの役割である。本人以外の、とくに提案者の上級職位の者によって手心が加えられたり、プリスクリーンされないようにする事が重要である。  

  

 先行リサーチが必要な局面は、一般的には、エマージングな市場ニーズに直面していると思われ、その実体や規模・成長性が十分に解っていない場合、そして、その市場ニーズに応えるために、どういう先進的・突破口的な商品テクノロジー開発が必要であるかが良く解っておらず、それがどの程度挑戦的な目標であるかの見通しが十分に解っていない場合である。

 このようなことは、在来の主力事業の範囲内でも、技術革新の結果しばしば起こる事態であるが、主力事業の隣接市場・隣接テクノロジーの分野で起こる事が多い。懸け離れた分野で起こった技術革新が、主力事業の存亡に関わることもある。そういう中で、本当に重要な戦略的課題をいち早く見出して行かなければならない。そのための先行リサーチなのである。

  

 先行リサーチとは、要するに、先進ニーズと先進テクノロジーにフォーカスした勉強(research study)を、泥縄にならないうちに、できることなら誰よりも先行して開始することである。

 通常、文献、聴き取り調査から始めるしかない。先進的な情報と知識は、その主題について開発、研究を行っている人のところに集まり、集積している。先進的なテクノロジーの研究報告がされる学会、プロフェッショナルソサイエティの大会やワークショップに参加し、いろんな専門家と会い、親しくなり、ハードルや壁をどうやって克服したかを探り出すことである。その上にたって、実行計画を立案するまでに何を先行リサーチしなければならないかというシナリオを策定することである。

 ごく当たり前に聴こえるかも知れないが、じつは、この先行リサーチシナリオを書くには、相当高度に集積された知識と創造性が必要で、これが行われている企業は非常に少ない。この先行リサーチシナリオを策定するのが、将来へ向けてどういう新しい知的資源を構築するべきかという事業戦略の核心をなすものであり、CEOのブレーントラストの最初のミッションであるからだ。

 この時点では、まだ実行計画は影すらないので、開発投資のROEを算定しようもない。年間一定額を、CEO室/社長室の先行リサーチ費として予算化し、その決済権限をSMOに一任するのがよい。先行リサーチ費は、外国を含む出張経費、新規学会等の加入に必要な経費、交際接待費、会議費、文献・論文集・定期刊行物等(ネット上のものを含む)購入費、専用タブレット/携帯電話購入費、等々とする。

 先行リサーチシナリオ策定フェーズのなるべく早い時期に、財務部門のメンバーを加えると良い。テクノロジー開発の成功確率に疎い財務関係の人達に、テクノロジーと市場ニーズの変化・進化の必然性(what could happen)を理解して、投資キャッシュフローを考えてくれる人物を育てて欲しいからである。

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      5.4.商品開発の実施計画へ(4)(2017年第27回)   

キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻  融

再度、テクノロジーの先行リサーチは、どのように進めたら良いのだろうかについて触れたい。

 

さきに指摘した通り、先行リサーチが必要な局面は、一般的には、エマージングな市場ニーズに直面していると思われ、その実体や規模・成長性が十分に解っていない場合、そして、その市場ニーズに応えるために、どういう先進的・突破口的な商品テクノロジー開発が必要であるかが良く解っておらず、それがどの程度挑戦的な目標であるかの見通しが十分に解っていない場合である。

 

主題が先進的であれば、当然、未知、無知、思い込み、鈍感さ、軽視、誤認識などが渦巻き、見解が分かれ易い局面である。事実、トップの危機意識が高ければ高いほど、トップの決断を鈍らせる混沌の渦に巻き込まれ易い。自分自身が、何について深く知らなければならないかについてさえ、明快な指針をもつ自信が湧いて来ないことすらある。どんな企業においても、どんなトップであれ、アイデアの評価能力/課題設定能力は、そんなに高いものではない。十分な自信がないのが通常のことである。

  

 自信の問題なのではなく、能力の問題なのである。自信は、成功体験の集積によって形成される。すなわち、過去の成功であり、将来へつながるものもありうるが、先行リサーチには逆行するものになりかねない。それに対して、能力の向上・開発は、競争における永遠の課題である。すべての競争は、市場ニーズに適合した新テクノロジー商品を、いかに早く創り出すかという、企業内の資源が備え持つべき能力を開発する競争なのである。

 

先に、「提案書として出された主題をどう捌くかの検討を、1週間以内に開始し、1ヶ月以内にCEO方針決定を行なえるようにしなければならない。」と述べた。決定すべき方針は、「何を先行リサーチしなければならないかというシナリオを策定することである。」そして、「ごく当たり前に聴こえるかも知れないが、じつは、この先行リサーチシナリオを書くには、相当高度に集積された知識と創造性が必要であることも指摘した。先行リサーチシナリオが書けるだけの実力のない者には書けない。リサーチシナリオを書くための調査・研究が必要になり、提案者本人の実力向上に大いに役立つ。

  

相当高度に集積された知識とは、寺子屋大学の優等生が持ち合わせている程度の教科書知識ではたいした役には立たないということである。高等教育における教科書というものは、これだけは最低でも知っていなければならないものとして書かれている。にもかかわらず、現実の進化は非常に早い。最低・最小の限度は、日々増大する。優れた教授達は、サブテキストを多用したりして、現実のテクノロジーの進化を取り入れてくれる。それに対して、日本の多くの大学では、教科書は一冊だけで、「これだけ覚えればよろしい」という扱いである。それは、明治以後、初等教育・中等教育・高等教育の三層の教育システムを構築して来たが、いずれもが江戸時代の成功体験である寺子屋モデルを基盤にしていたことに由来する。

今日においても、ほとんどの大学が寺子屋大学の域を出ない。それは、初等・中等教育における検定教科書制度と指導要領による規制によってつくられる優等生像にある。「これだけ覚えれば、あなたは優等生になれる」とする「教育」理念をつくった。明治初頭に、educationの訳語に「教育」の漢語をあてたことに、近代化の第一歩の大きな誤りがある。英語、フランス語をはじめ、ロシア語を含む多くの欧州各国で使われているeducationの語は、ラテン語のducere(連れ出す・外に導き出す)という語に由来するとされ、「educationとは、人の持つ能力・才能を引き出すこと」とする理念を表わしている。

他方、古代ギリシャ以来、educationもしくは教育を統治の道具として活用しようとする意図は連綿として続き、教育機関を司るのは、神の教えである道徳教育・人間教育を基点教会なのか、識字率を高め、国の法令遵守と納税義務や基本的人権の理解を高めることを基点とする国家や社会なのかという綱引きが続いた。産業革命とともに、19世紀ヨーロッパの政治的争点となり、20世紀に入ると公教育という形で、初等教育の義務教育から始まって、欧州先進国に見られる高等教育の無償化にまで至って、国家、社会の側の勝利となっている。

  

 

さて、先行リサーチとは教科書のない世界におけるリサーチであり、その領域で世界でも最先端の主題に関わってくることは、ほぼ間違いないことであろう。 どう対処するか。先にも触れた通り、リサーチシナリオを書くことである。そのとき最も大切なには、会社としての先行リサーチに対する指導理念である。提案主題が未踏領域にありそうだということが解っていたとしても、その近傍・隣接の領域に迫る先端研究をやっている人は、必ず3人以上はいるというという経験則を頼りに、検索エンジンに齧りついて論文サーチに取組むことから始めなければならない。参考になりそうな論文を見つけたら、その論文が参考・引用している論文にも眼を通していると、その未踏領域のどこに、どういう壁があり、落し穴やハードルがあるかが見当がつくようになる。そうなればリサーチ課題の連鎖としてのリサーチシナリオが書けるようになる。

そのとき大切な企業としての指導理念は、  1).エマージングなニーズは何かと、  2). このニーズに応える価値あるテクノロジーの実現手段は何かについて、片時も忘れずに追求できているかという、自制心に満ちたアイデア評価能力の研鑽である。先行リサーチの指針としては、テクノロジーの先行リサーチであって、サイエンスリサーチではないことを肝に銘じさせることである。アイデアの評価能力をたかめる知識を共有する共同体の役割に着目し、CEOがその先頭にたって、共同体形成をリードしなければならない。

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