キャリア・コンサルタント協同組合 風 巻 融
Renewable Energyは、再生可能エネルギーではなく、せめて「再補充可能エネルギー源」と呼ぶべきである。伝統的な、漢語由来の日本語の感覚としては、「再生」は一度死んだ物を生き返らせるという意味が濃厚で、Renewableとは異質である。英語のRenewable Energyは、IPCC第4次評価報告書によって「自然界によって利用する以上の速度で補充されるエネルギー全般」と定義されて以来、この定義が用いられている。Renewableはもっぱらカーボンフリーの状態で自然現象によって「補充される」エネルギー源であることを意味している。したがって、無尽蔵に無料で使えるエネルギー源である。対極にあるのは、「枯渇性エネルギー源」である。
再補充可能エネルギーを上手に活かすには、風力発電なら風況や風速に左右されないこと、太陽光なら昼夜、日照時間、天候に左右されないようにして活用する必要がある。これらのエネルギー源は、波動的、間歇的に変化するのが特徴なので、エネルギーを何らかの形で貯留しないと有効に利用できない。また、現在の利用形態は、直接利用が多く、課題を残している。とくに、現在のスマートグリッドでは機能的にも性能的にも十分ではない。しかし課題があるところにこそ将来性があると言える。COP23以降、風力発電や太陽光発電への投資がにわかに活発化しており、投資セクターからの日本批判も強力になっている。
わが国では、「エネルギー供給構造高度化法」等複数の法律、政令で定められているが、Renewable Energyの統一定義は無い。重要なことは、枯渇性エネルギー源でないことに発し、100%カーボンフリーであることである。中には「新エネルギー」のように、ウランや天然ガスまでを、再補充可能エネルギー源と一緒にして延命を謀る、悪質とも呼ぶべき類義語まである(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)。学術的にまったく体をなさないもので、先進諸国の批判を浴びている。
もっと酷いことに、日本はCO2排出量を16%削減できるという石炭火力発電プラントを6基、ODA援助付きで、発展途上国向けに受注した。16%削減できることが、日本のテクノロジーの手柄話のように報じられていることが異様である。中国は、削減型でない石炭火力発電プラントを10基も受注している。どちらの例も、途上国のもつ排出権の枠内に収まっているとしているが、それならば、日本も中国も相手国の排出権を買い取ってからでなければ、COP締約国として筋の通った行動にはならない。批判があって当然なのだが、これらの批判を含めCOP23については、どのメディアも殆どまともな報道をしなかった。丁度、国会が解散になり、暇がなかったというのがいいわけである。
COP21以降の「緩和」対策の戦略は、カーボンフリーなエネルギー源への切換えにあるにも拘わらず、カーボンリッチな石炭火力への投資をするのは何事か。日本が、COP21で強調して、決議の中に明記することになったテクノロジー開発の重要性とは、たった16%の在来比削減というこんなごまかしのことだったのか。という批判である。
中国では第19回党大会で、習近平が環境問題、気候変動について随分と立派な構想を述べている。本当にやる気はあるのか、実現できるのか、世界はまだ半信半疑である。しかし、その一方で、カーボンリッチな石炭火力発電所を途上国に安く売りつける。これが中国式である。なぜなら、彼等はカーボン排出権をもっているからだというであろう。
しかし、その一方で、風力発電やメガソーラーの建設にも非常に熱心で、いつの間にか、いずれも世界トップの発電量を誇るに至っているだけでなく、発電プラントのベンダーとしてもトップ企業は中国企業で、世界中に輸出をしており、さらに世界の投資マネーを引き付けている。習近平構想を強引に実現して行くだろう。
日本にも、世界の投資マネーを引き付ける優れた商品・テクノロジーがいくつもある。残念ながら、投資マネーを魅了する宣伝が下手である。カーボンフリー・再補充可能エネルギー産業(商品)の世界のドミナントデザインを造り上げる事業意欲が低調である。大体、カーボンフリー・再補充可能エネルギー産業(商品)が、これからの、唯一の成長産業であるというニーズ認識・市場認識を欠いているところに原因がある。世界のドミナントデザインを造り上げる事業意欲という点で、日本のビジネスはいつも臆病と言って良いほど感度が低い。日本の優れたテクノロジーにナトリュウム硫黄電池がある。英語では、sodium-sulfur batteryである。NAS電池の登録商標で、日本碍子が2003年以来量産販売している。2016年末までの国内実績が350MWである。日本碍子ならではの秘伝の技術であるβアルミナ(セラミック)を電解質に、ソデューム(ナトリュウム)を負極に、硫黄を正極に用いる大容量2次電池である。ナトリュウムは、世界では死語である。化学記号はNaと書いてsodiumと読む。「NAS」では、欧米ではピンと来ない。
IEEEのスマートグリッドの規格は、非常に良く考えられた規格であるが、これからの電力需給とテクノロジーの進化を取込んで行く電力インフラとしての配送電システムとなりうるかというと、そうはいい切れない。
インターコネクションノードに、エネルギーの貯留を基本機能として具備した新世代のスマートグリッド配送電ネットワークが必要であると思う。新しい集積化されたシステムコンセプトがあって然るべきだ。秘伝の技術を新しいコンセプトで体系化することがテクノロジー開発である。テクノロジーとビジネスが同じ目的律で連携し、テクノロジーモデルとビジネスモデルを同時に革新しなければならない。
幹線に超伝導ケーブルで大地域毎のループをつくり日本全国を10位のループでカバーし、隣接するループをインターコネクションノードで結合する。さらに、一つのループ内に、複数の小地域ループを置き、大地域ループとのノードに、エネルギーの貯留を基本機能として備えた発電・変電所を配置するようなシステムを構成したらどうか。(仮にスマートノードと呼んで置こう)。
小地域ループは、いわゆるスマートシティや工業団地単位で構成し、そのためのスマートノードを複数もち、その先はスマートグリッドで各需要家/売電家に接続される。
このような配送電インフラを構築するには、習近平構想ならずとも、20年間に総額で¥200兆を上回る投資が必要になろう。¥200兆のビジネスが創出されることになる。世界規模で考えれば、¥数千兆のビジネス機会があると考えるべきであろう。COP21が掲げた産業革命以前の2倍以下にまでCO2濃度のレベルを下げる努力は、測り知れないビジネス機会を産み出すものだ。COPからの離脱によってアメリカの凋落は決定的になる。産業革命以前の2倍以下にまでCO2濃度のレベルを下げるという目的律をどうとらえるかに懸かっている。
暮れのNHKを観ていたら面白いものを見つけた。東京電力、日本碍子、東芝、三菱電機、その他何社かの共同開発で、丁度私が「スマートノード」と仮に呼んだものにぴったりのテクノロジーが紹介されていた。
何基かの風力発電の出力をソデューム硫黄電池に蓄電する。その電力を用いて、水を電気分解して水素を製造して貯蔵する。水素ガスによるガスタービンで発電機を駆動する。水素燃焼の高熱を利用して水蒸気を発生し、コジェネレーションとして発電機を駆動する。その出力を配電する。
この方式の利点の第一は、風力や太陽光のように気象条件、日照条件など変動のある再補充可能エネルギー源のどれでも対応して、平滑化して充電できることにある。ソデューム硫黄電池は、満充電してから放電させるのが望ましいことや、充放電に300℃の高温が必要なこと等、制約があるが、操業ノウハウはほぼ完成の域にある。運搬用のコンテナで1台が構成されるなど、標準化も進んでいる。
1次入力の変動に、さらに柔軟に対応するだけでなく、液体水素の形で貯留することにより、需要に対する応答の巾を持たせ、水素/廃熱コジェネレーションにより、再補充可能エネルギー源からの1次入力を増幅して、出力電力を発生させることを目論むことができる。前述の小地域ループ用のスマートノード用として、10MW級、30MW級、100MW級のような形で標準化できるものと思われる。
■□■□ _______________________■□■□